「インバウンド」とは何を指す?マーケティング?観光客?
近年、インターネットやスマートフォンの普及から、流通する情報量が格段に増えています。このような中、テレビや雑誌、新聞、インターネット、交通広告などの広告や、ちらし、電話でのセールスなど、さまざまな販売促進活動が行われています。しかし、消費量は情報流通量に追いついていません。そんな中、消費者の行動が変化してきています。
また、観光の分野においては、訪日外国人の数が増加の一途をたどっており、日本からの海外旅行者の数を上回っています。このような社会的変化が起きる中、台頭してきたのが、インバウンドというキーワード。いったい、どのような意味があるのでしょうか?
インバウンドとアウトバウンドというキーワードは、業界により異なる意味で使用される場合があります。業界ごとの意味の違いを確認しておきましょう。
1.マーケティング業界での「インバウンド/アウトバウンド」とは?
近年、インバウンドマーケティングという言葉がよく聞かれるようになりました。インバウンドとは、従来の訪問販売や電話でのセールス、DM、テレビや雑誌、新聞などのCMや広告などのアウトバウンドな営業・マーケティング活動と反対の位置づけとして登場した言葉です。
つまり、アウトバウンドのように自ら積極的に、消費者にアプローチして、購入を促すのではなく、消費者自ら「この商品やサービスを買いたい!」という思いと行動を引き出す手法のことです。例えば、消費者に好まれる情報を記事として配信するオウンドメディアや、興味ある情報を自由にダウンロードできるホワイトペーパー、自社セミナーやソーシャルメディアでの交流などがあります。
2.観光業界での「インバウンド/アウトバウンド」とは?
一方、観光業界でのインバウンドとは、海外から外国人が日本に訪れて旅行することを指します。アウトバウンドはその逆で、日本人が日本国内から、海外のいずれかの国へ旅行に出かけることを指します。
3.金融業界での「インバウンド/アウトバンド」とは?
金融機関のコールセンターでは、顧客からの申込受付や問合せなどの電話を受信するのをインバウンド業務、顧客に商品の説明・勧誘を行うなどの電話をかける(発信)アウトバウンド業務という形で分類しています。金融業界以外でも、顧客からのコミュニケーションを企業側が受ける行動を「インバウンド」、企業側から顧客や消費者に対応する業務を「アウトバウンド」と呼ぶケースはあります。金融業界でも外国観光客の増加に伴い、外国人をターゲットとしたクレジットカードなどの商品やサービス、旅行者への対応をインバウンドと呼ぶようになっています。
4.不動産業界での「インバウンド/アウトバンド」とは?
不動産業界では、海外の投資家などに日本国内の不動産を紹介し、外国人に不動産を販売することをインバウンド事業、それに対して、海外の不動産を国内の投資家に販売する事業をアウトバンド事業といいます。最近の訪日外国人の増加を受け、旅行業界、観光関連業界と並んで、インバウンド事業が飛躍的に伸びているのが不動産業界です。さらに、従来のインバウンド事業に加え、不動産業者が新たなインバウンドビジネスとして、自社の空き物件を民泊として外国人宿泊客に提供したり、旅館へのリノベーションに参入するといったケースもあります。
5.物流業界での「インバウンド/アウトバンド」とは?
物流業界におけるインバウンド、アウトバウンドという言葉は、サプライチェーン・マネジメントにおける用語として使用されています。サプライチェーン・マネジメントとは、製品の開発、製品部品の調達、製品の製造、配送、販売という「製品供給(サプライ)の連鎖(チェーン)」を効率化するための製造業向けのマネジメント手法を指します。
サプライチェーン・マネジメントにおいては、物流業界が担うことになる企業と顧客・消費者をつなぐ「在庫管理」「物流管理」をアウトバンドと呼び、企業内の製造工程における「生産管理」「在庫管理」「物流管理」をインバウンドと呼んでいます。
物流については、一般消費者の皆様には耳慣れない話で少しわかりづらいかもしれませんが、大まかに分類すると、製品として完成し、販売するために管理するプロセスをアウトバンド、製品を製造するために管理するプロセスがインバウンドということになります。
そして、他の業界と同様、物流業界でも国土交通省の主導で個人旅行が多い外国人観光客向けのサービスを始める動きもあり、今後は物流業界でも、新たな意味でのインバウンドが生まれてくるかもしれません。
対となっているインバウンドとアウトバウンドのうち、インバウンドのほうがより注目を浴びています。その理由に迫ってみましょう。
1.インバウンドマーケティングが注目される理由
マーケティングの世界で、インバウンドマーケティングが注目されるようになった背景として、一番大きいのはやはり情報流通量が爆発的に増え、消費者が選べなくなっていることにあるといわれています。昔は、一つの商品を売り込まれると、他と比較するものがほとんどなかったため、店員や営業マンから話を聞いて、良ければ買うといったシンプルな流れでした。しかし、今では、売り込まれたり、テレビCMを見たりすれば、「ほかの商品はもっと安いのではないか?」「もっと品質の良い商品があるのではないか?」と気になってきます。比べる材料が豊富にあるからです。そのため、一つの商品を売り込まれることはわずらわしく、自分で十分吟味して比較する時間が欲しくなってきます。
このような消費者心理と行動の変化から、売る側は、「売り込む」のではなく、「見つけてもらう」「選んでもらう」といった姿勢に転じる必要が出てきたのです。
2.外国人による訪日旅行(インバウンド)が注目される理由
では、訪日旅行のほうのインバウンドは、なぜ注目されているのでしょうか。それは、近年、訪日外国人数が格段に増えていることが背景にあります。2005年に670万人程度だった訪日外国人数が、2015年には急増し、1900万人を超えました。この2015年の時点で、訪日外国人旅行者数が、日本人の海外旅行者数を上回りました。これは、1970年以来初めてのことです。さらに、2020年の東京オリンピックを控えているため、今後、ますますインバウンド産業が活性化していくことが予測されます。
インバウンドとアウトバウンドは、業界ごとにまったく異なるものです。しかし、前述の訪日外国人数の急増により、各業界で新たなインバウンドビジネスが生まれつつあります。従来のインバウンドに加えて、観光業界におけるインバウンドのニーズが他の業界でも展開され、注目を集めています。
変化する時代の背景をとらえ、インバウンドというキーワードに注目していきましょう。